私が江戸川乱歩と出会ったのは大学の授業がきっかけでした。

文学部を専攻しておりましたが、主に古典文学を扱っていたためそれまで近代文学に興味はなく、江戸川乱歩も名前や作品は知っていましたが読んだことはありませんでした。

授業で江戸川乱歩の作品を初めて読み、今まで抱いていたイメージとは異なる独特の世界やその魅力に取りつかれていったのです。

ここでは江戸川乱歩の作品、特に初期のものについてその魅力を語っていきたいと思います。

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明智小五郎シリーズ以外も面白い江戸川乱歩

江戸川乱歩と言えば明智小五郎シリーズが有名だと思います。

名探偵明智と助手の小林君が様々な難事件に挑む、どちらかと言えば少年少女向けの作品が江戸川乱歩の代表作として知られているのではないでしょうか。

私もそのイメージが強くあったために特に江戸川乱歩の作品を読もうとは思いませんでした。

ところが私はある作品に出会いそのイメージが一変したのです。さらに他の作品を読めば読むほどその魅力に嵌っていきました。

今回は江戸川乱歩の作品から嵌ったきっかけである『屋根裏の散歩者』と『人間椅子』という二つの作品を紹介したいと思います。

どちらも全く少年少女向けとは言えない、江戸川乱歩の魅力が詰まった大人のミステリー作品となっています。

気持ち悪いけど共感もしてしまう主人公たちが好き

まずは『屋根裏の散歩者』と『人間椅子』に共通する部分として、ある種の気持ち悪さがあります。

『屋根裏の散歩者』では、主人公が覗きの趣味に目覚めてしまうのです。だからといって彼は特定の人物をストーキングするということはしませんでした。

自分の住んでいるアパートの屋根裏に侵入することができると発見した主人公は、屋根裏から住人たちの様々な人間模様や生活ぶりを観察するようになるのです。そこから殺人事件に発展してしまうのですが、私が魅力を感じるのはその「覗き」という行為に対してです。

主人公の屋根裏をはいずり回って下の住人を覗いているときの緊張感や高揚感が、まるで今まさに自分が覗いているかのような臨場感と共に伝わってくるのです。

またそこに至る心情の過程にもとても共感できる部分が多く、そこが非常に魅力的です。

『人間椅子』も同様に、タイトルから察せられるようにある男が椅子の中に入ってそこに座る人々を観察し始めるのです。

両者に共通するのは犯罪以上の気持ち悪さを主人公が持ちながら、読んでいてそれに共感できてしまうところだと思います。

気持ち悪さが魅力であり、人を選ぶ部分

『屋根裏の散歩者』と『人間椅子』の魅力である気持ち悪さは、同時に作品のデメリットというか、人を選ぶ部分になります。特に『人間椅子』には人を選ぶ気持ち悪さがあります。

この作品はある椅子職人が自分の作った椅子の中に入ってしまう、という物語です。恐ろしいのはこの椅子職人が非常に用意周到だということです。

自分が入るスペースを確保して大きめのソファを作り、それが運ばれ使用されている間も椅子の中でじっとしているのです。そして人気のない真夜中に用を済ませたり食事を調達したりと、その気持ちの悪い犯罪の一部始終が描かれているのです。

そして椅子職人は椅子に座る人々(特に女性)の温もりや感触に心奪われていくのです。椅子職人の心の機微が上手く描かれているのですが、それが読む人によっては受け付けがたく感じるのではないかと思います。

おすすめの読む順番

読む順番のおすすめとしては先に『屋根裏の散歩者』を読んでもらいたいです。

この作品を読めば適度なスリルと江戸川乱歩作品の雰囲気を味わってもらえると思います。また、この作品で江戸川乱歩作品を受け入れられるかどうかを判断してもらいたいと思います。

次に『人間椅子』で江戸川乱歩の気持ちの悪い独特の雰囲気を味わってもらいたいです。

『屋根裏の散歩者』には明智小五郎も登場

『屋根裏の散歩者』には実は明智小五郎が登場しているのです。ところがここに登場する彼は少年探偵団シリーズの格好いい探偵ではなく、人の弱みに付け込むような、どこか嫌な奴のように描かれています。

明智はにこにこと笑みを浮かべながら、犯罪を犯した主人公を追い詰めていくのです。一方『人間椅子』には明智は登場しません。椅子職人の気持ちの悪い告白が作中で語られていくのです。

手短にかつ面白いものを読みたい人は短編集をおすすめ

江戸川乱歩作品の魅力は気持ち悪さだと再三書いておりますが、それでも読みたくなるのは描写や文章の丁寧さがあるからだと思います。

江戸川乱歩の初期の作品は短編です。にもかかわらずその中で登場人物の気持ちの悪い特殊な嗜好を丁寧に描き、事件に発展させてそして集結させているのです。

もしも最近のミステリーはつまらない、手短に読めてかつ面白いものを読みたい、という人は江戸川乱歩の短編集をおすすめします。

しかしやはり注意も必要です。江戸川乱歩の作品にはあまりに特殊なものも存在します。私も江戸川乱歩の作品が好きですが、この作品をもう一度読むのはしんどいな、と思うものがあります。

私が読んだ中では『孤島の鬼』『パノラマ島奇談』『芋虫』の順で注意が必要だと思います。

『孤島の鬼』や『パノラマ島奇談』はグロテスクな描写があり、『芋虫』は私は好きな作品なのですがこのタイトルが何を表しているか、注意が必要です。

まとめ

私は江戸川乱歩の作品について『屋根裏の散歩者』と『人間椅子』を中心に紹介しました。どちらも主人公の気持ちの悪い嗜好を中心に描いた短編小説です。

一般的には受け入れがたいその嗜好になぜか共感できてしまう文章や描写の丁寧さ、美しさが江戸川乱歩作品の魅力だと思います。

『屋根裏の散歩者』から『人間椅子』の順で読むことをお勧めします。しかしやはり江戸川乱歩の作品にはあまりに特殊なものを描いているものがあるので注意が必要です。