私は三十代の女性です。今回ご紹介する「人魚シリーズ」とは、高橋留美子先生が描く「人魚の森」を始めとする、連作短編漫画のシリーズ名です。

ジャンルで言えば、和風ホラーでしょうか。学生時代に、美しい表紙とタイトルに惹かれて本を手に取りました。

不老不死をもたらす「人魚の肉」を中心に、それを食べて人生を狂わされた人達の姿を、哀しさや残酷さも含め、描いています。

「らんま」などのギャグタッチの作品とは異なり、本シリーズではほとんど笑いはありません。

残酷な場面や、過酷な運命をまっすぐに描いています。その魅力について、ご紹介させて頂きます。

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『人魚シリーズ』とは

現在、「人魚の森」「人魚の傷」「夜叉の瞳」という、三冊の単行本が発行されています。

読み切りの連作短編で、主人公は湧太(ゆうた)という青年と、真魚(まな)という少女。

ともに人魚の肉を食べ、不老不死になってしまった者同士。

他の人間と同じ時を生きることが出来ず、二人きりで永遠に放浪し続ける……そんな残酷な運命を背負わされた二人。

そして行く先々で、人魚に関わる事件に巻き込まれていきます。

旅の途中で出会うのは、人魚の生き血で不老になった女性や、人魚の灰で蘇った、魂の無い女性。

同じ姿で生き続ける少年に、不老不死になれず、化け物になってしまった人々……。

それでも多くの人が、永遠の命に憧れて人魚の肉を求める姿は、滑稽で哀しいです。

独特の悲哀と、人間の醜さ。その中のわずかな希望を感じる物語です。

不老不死の苦しみを唯一分かち合える2人の関係

一番のテーマは、主人公である湧太と真魚の関係でしょうか。

真魚に会うまで、五百年間一人ぼっちで放浪を続けてきた湧太。そんな彼が現代で初めて出会った、自分と同じ不老不死の人間が真魚でした。

共に、人魚の肉と知らずに口にして、望まない永遠の命を得てしまった者同士。

ある理由から世間と離され、閉じ込められて育った真魚にとって、湧太は初めて出会った男性でもあります。

彼と共に旅をするうちに、少しずつ世間の常識を知っていく、真魚。そんな彼女を見守る湧太の姿は、妹を見る兄のよう。

ようやく出会えた「自分と同じ存在」に救われているのは、湧太も同じなのでしょう。

それまでは親しくなった人に全員先立たれ、恋をした女性とも添い遂げることが出来なかった湧太。

普通の人間に戻る方法を探し続けてきたものの、それは不可能だと知らされた今、飽きるまで真魚と二人で生きるしかありません。

でも、今は一人きりじゃなく、同じ悩みを分かち合える相手がいる……。

大きな絶望の中にある、たった一つの希望が、お互いなのだと思います。

シリアスでダークな話が好きな人へ

漫画作品なので読みやすいですが、時に残虐な描写があるので、そういったもの、または流血シーンが苦手な方には向かないかもしれません。

なにせ不老不死がテーマなので、首を落とされたり、刺されたり、けっこうショッキングな場面が多いです。笑いも少ないですし……。

小さい頃読んでいたら、トラウマになっていたかもしれません。

また前述した通り、他の高橋作品と違い、笑いは最小限しかありません。

基本的に、シリアスでダークな物語が続きます。

なので、そういった者が苦手な方にも、またオススメしづらいかも……。

ただ、救いのない物語だけではなく、その中でお互いの存在を目印に、精一杯生きる湧太と真魚の存在が、確かな希望となっていますが。

人間の欲深さ、愚かさについて、改めて考えさせられる

まずは、絵の美しさでしょうか。美しい着物に女性達など、キレイなものは本当にキレイです。

その反面、醜い化け物なども多く出てくるので、対比が際立ちますが……。

人魚の肉がもたらす「不老不死」に憧れて、多くの人がそれを口にします。

ですが人魚の肉は猛毒で、ほとんどの人は即死してしまいます。

不老不死になれるのは、数百年に一人ほど。それ以外は死ぬか、醜い化け物になるか……。

「なりそこない」と呼ばれる異形の怪物は、物語の中で度々登場します。

人魚に関わったばかりに、何もかも失ってしまった哀しい人達……。

それでも飽きずに人魚の肉を求める者は多く。

人間の欲深さ、愚かさについて、改めて考えさせられます。

たくさんの人との切ない別れ・・・・

また、物語は現代だけではなく、過去を舞台にしたものも多いです。

湧太が生きて来た、五百年の間の出来事も描かれているので……。

その最中に会った人々も、やはり人魚に翻弄されています。

死にかけの父親を救う為に、人魚を欲する少女や、人魚の生き肝で蘇った少女。

その周囲の人達も……。

湧太と恋をしたものの、添い遂げることが出来ず泣いた女性もたくさんいます。

海賊の娘・鱗や、良家の娘・苗……。特に苗さんはある事件に巻き込まれ、命を落としてしまいます。

彼女と共に生きられなかったこと、彼女と一緒に死んでやれなかったことは、湧太にとっても忘れられない大きな傷となりました。

苗さんが出てくる短編「約束の明日」は哀しく、切なく、残酷な物語で、シリーズ中でも屈指の名作だと思います。死んでもなお、湧太を想い続けた苗さんの一途さが、切ないです。

ちなみに原作漫画も勿論ですが、アニメ化もしており、そちらもオススメです。

湧太を演じた山寺宏一さんの声はカッコ良く、主題歌も素敵なので。

まとめ

美しい絵とタイトルに反して、内容は人間の弱さ、愚かさを描いた不気味で切ない物語……。

それが、高橋留美子先生の連作短編漫画「人魚シリーズ」です。

不老不死になってしまった男女を中心に、永遠の命を与える人魚の肉に翻弄される人々の、姿を描いています。

人魚の肉に関わったばかりに、人生が狂ってしまった人々。

永遠の命を手に入れた者も、誰かと共に生きることが出来ず、長く孤独な時間を強いられます。

幸せとは、命の長さとは。そんな深淵なテーマを感じる、傑作漫画です。