私は30代の主婦です。10代の頃、村上春樹さんの文庫本『ダンス・ダンス・ダンス』の表紙を見たのが、佐々木マキさんのイラストとの初めての出会いでした。

その時はイラストを意識することはなく、それよりもむしろ村上春樹作品との出会いの方が自分にとって大きなインパクトを与えました。

『ダンス・ダンス・ダンス』は前作から続いていたため、遡って数作を買い揃えたところ、いずれも佐々木マキさんが表紙を手掛けていました。

村上春樹作品へのめり込んでいくと共に、佐々木マキさんのイラストへも愛着を感じていきました。

そんな私がおすすめしたいのが、佐々木マキさんの作品を集めた『佐々木マキ見本帖』です。

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佐々木マキ著『佐々木マキ見本帖』とは?

『佐々木マキ見本帖』は、村上春樹作品の表紙イラストを手掛けたイラストレーター・マンガ家・絵本作家である佐々木マキさんの作品を集めた図録です。

”画集”ではなく”見本帖”とタイトルがつけられているのは、イラストだけでなくマンガもいくつかの作品から数ページ抜粋して載せられているからかもしれません。

佐々木マキさんの約45年間にわたる活動の中で発表されたたくさんのイラスト、絵本、マンガの中から、素敵な作品が集められています。

カラー作品は色使いが鮮やかで、白黒作品は一つ一つの線が美しく、時間をかけてじっくりと眺めたくなるページばかりです。
ポップでかわいらしい作風とどこかへんてこでシュールな世界観は見ていてとてもおもしろく、楽しい気持ちになります。

イラストににじみ出ている独特の個性が好き

私が佐々木マキさんの作品でいちばん惹かれるところは、イラストににじみ出ている独特の個性です。

万人受けするのか、しないのかは私には判断しかねますが、少なくとも描かれているご本人は社会において「多数派」ではなく「少数派」なタイプなのではないかな、と思われるような雰囲気が作品から感じられるのです。

たとえば絵本『くまの木をさがしに』の中では、女の子が誕生日にかわいいくまのぬいぐるみがほしいと言います。
それは「みんながかわいいと言っても、私がかわいい!と思えないくまはいや」なんだそうです。

周りに流されることなく、自分の好みや感覚、意見を大切にしようというメッセージを絵本に込めることで、小さな子供たちを応援しているようなあたたかさを感じます。

たしかに子供だって一人ひとりしっかり自分の意思や好みを持っているのに、時には大人に言いくるめられたり多数派に追いやられたりして理不尽な思いをすることがあるんですよね。
それを理解し、応援してくれる大人って、とても貴重なのではないでしょうか。

「自分らしさは大切なものだよ」という趣旨の絵本

自分の意見に固執してしまうと、ワガママだとか協調性がないと言われてしまうことがよくあります。
特にこれまでの日本の社会や教育現場では協調性が強く求められてきました。

だからこそでしょうか、子供の頃を振り返っても、このような「自分の考えを大切にしよう!」というようなメッセージ性を持った絵本はあまり見かけなかったような気がします。

佐々木マキさんの絵本には、他にも『やっぱりおおかみ』という仲間がいなくても一匹だけで強く愉快に生きていくおおかみのお話もあります。

「自分らしさは大切なものだよ」という趣旨の絵本ですので、”社会性や協調性に優れた誰からも好かれる良い子の鑑”のような子供を育てたい方には、もしかしたら向かないのかもしれません。

『佐々木マキ見本帖』を購入して一目惚れ

私が『佐々木マキ見本帖』を購入したきっかけは、この図録が発売されたことを記念して行われている原画展に訪れたことでした。

実は、当初は見本帖を購入するつもりはなかったんです。
ただ佐々木マキさんのイラストは好きなので、近くで原画展があるから行ってみよう、というだけの軽い気持ちで美術館を訪れました。

でもそこで展示されている原画を見て、美しさに感動したんです。

私はそれまで他の作家さんも含め、原画展というものに出向いたことがなく、印刷された作品と原画との違いがどれほどのものかということもまったく知りませんでした。

まず、何よりも驚いたのが色の違いです。

原画の彩色には透明感があり、とても繊細でした。印刷では背景が紫色でどこか怪しい、不穏な空気を醸し出しているような印象に見えていたイラストが、実際の背景は水色と紫色のグラデーションでほんのりと淡く色付けられ、まったく怪しさ・不穏さを感じないイラストだったことには、ちょっとした衝撃を受けました。

印刷によって色が変わり、そのことでイラストの印象まで変わってしまうだなんて、本当に驚きでした。

また、一本一本の線の美しさにも息を呑むほどでした。
印刷されたものは何気なく眺めてしまいますが、原画では線の細さ、細かさや曲線の美しさが引き立っていました。

人の手で線を引かれ、色を塗られたそのままの紙を間近で見られる、それはとても貴重な経験でしたし、見れば見るほど作品の世界観に引き込まれていくような不思議な体験でもありました。

一巡しただけでは足らず、二巡目を回っても帰るのが惜しく、これはもう見本帖を買って帰るしかないということになりました。

原画展は全国を巡回しているようですので、もしお近くで開催されるようでしたらぜひ訪れてみて下さい。

まとめ

イラストや絵本のことを主に書きましたが、佐々木マキさんは1960年代には『ガロ』でマンガを描いておられた方です。

その当時の作品も見本帖には一部載っていますし、原画展では原稿が展示されています。
子供から大人まで楽しむことのできる作品であり、原画展ですので、興味を持たれたらぜひ見ていただきたいと思います。

村上春樹作品を読んだことがあるという方、本棚に『ダンス・ダンス・ダンス』や『羊をめぐる冒険』『羊男のクリスマス』が眠っているという方は、あらためて手に取ってみてはいかがでしょうか。